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その五 決戦前夜【投稿日 2006/02/06】 カテゴリー-4月号予想 タイトルは実はハッタリで、物語は合宿翌日の9月12日、即ち笹原が荻上さんの部屋を訪れる日の、約束の時間の数時間前から始まる。 朝から荻上さんは忙しく立ち働いた。 年末の大掃除並みのレベルの掃除を行ない、念の為に簡単な料理の用意もした。 そして笹原に見せる例のものを整理した。 そしてこういう時にも関わらず、いやこういう時だからこそ身だしなみにも気合が入った。 まずひと通り準備が出来ると、風呂に入って体を清めた。 まさかそんなことが必要な展開にはならないだろうが、気持ちの問題で下着も新品を出し、服装も何時もよりはオシャレっぽい(だけど地味)ものにした。 化粧は迷ったが、結局いつも通りのスッピンにした。 (どのみち化粧するなら買いに行かねばならないし) そして髪型は…いつも通りの筆にした。 この髪型は心もち顔の皮膚や筋肉が引っ張られる感じがするので、今日のような決戦の日にはピッタリなのだ。 約束の時間より2時間近くも前に呼び鈴がなった。 いくら何でも、こんなに早くは来ないだろう。 じゃあ誰だ? 怪訝に思いつつ、玄関の戸を開ける荻上さん。 扉の前に立っていたのは恵子だった。 恵子「(軽く手を上げ)ちゅーす」 某バスケ漫画のような挨拶をする恵子にあ然とする荻上さん。 恵子「ちょっと顔貸してくれる?」 2人は荻ルームの近所の喫茶店に入った。 コーヒーだけの荻上さんに対し、恵子はしっかりスパゲッティを頼んだ。 注文の品が届く前に、荻上さんの方から切り出した。 荻上「あの、本題に入っていただけませんか?(腕時計見つつ)もうすぐ…」 恵子「でーじょーぶだって。アニキ来る時間まで、まだ2時間はあんだろ」 荻上「何でそれ知ってるんですか?」 恵子「(あっさり)アニキの携帯見た」 荻上「(赤面)なっ、何てことするんですか!」 恵子「しゃーねーだろ。昨日帰りにアニキの部屋寄ったんだけど、あたし居ても携帯チラチラ見てるんだから。気になるだろ、普通」 荻上『そっか、笹原さんも落ち着かないんだ…』 恵子「それよりあんた、今日アニキにホモマンガ見せるんだろ?」 荻上「(赤面)なっ、何故それを!」 恵子「いや、昨日姉さんたちと話してるの立ち聞きしたから。ホモマンガってのはヤマカンだけど、当たっちゃった?」 赤面で俯く荻上さん。 恵子「それもひょっとしてアニキがネタのホモマンガ?」 最大赤面で俯く荻上さん。 恵子「やっぱそうか。中学ん時とおんなしことしちゃったわけだ」 席を立とうとする荻上さん。 その腕を掴む恵子。 恵子「ちょっと待てよ。あたしゃ別に責めてないから。それにまだ本題に入ってないし」 何時に無くマジ顔の恵子を見て、再び座る荻上さん。 恵子「そんで本題だけど…」 言いかけたところで注文の品が来た。 恵子「ちょっと待ってね。すぐ食べ終わるから」 そばかうどんを食べるように、皿に顔を寄せてズルズルとスパを食べる恵子。 早食い競争のような勢いで、あっという間に平らげた。 一方荻上さんはコーヒーに目もくれない。 恵子「ごめんね。マジ腹減ってたんだ。(ナプキンで口をぬぐい)そんで本題だけど、実は合宿に行く前の日、あんたのホモマンガ見たんだ」 荻上「えっ?」 恵子「まあ女のあたしが見る分には、なんつーか萌えーって感じだけど、男のアニキが見たら多分キモイと思うよ」 荻上「(怒って最大値で赤面)そっ、そんなことはあなたに言われるまでも無く分かってます!」 恵子「まあ落ち着きなよ。何も喧嘩売る積もりは無いんだから」 荻上「じゃあ何なんですか?」 恵子「あたしが確認したかったのは、あんたがそのことを自覚してるのかどうかなんだよ。まあ軽井沢ん時の話でそうだとは思ってたけど」 荻上「どういうことです?」 恵子「つまりさあ、あんた自身が他人が見たらキモイと分かってるもんアニキに見せる以上、アニキがキモイと思うことは許してやれって言いてーんだよ、あたしは」 荻上「…」 恵子「だってそうだろ?考えてもみろよ。そういう趣味の無い人間がホモマンガ見て気持ちいいわけねーだろ?」 荻上「…そうですね」 恵子「逆にアニキが、自分がネタのホモマンガ見て萌え萌えしてたらキモイだろ?」 荻上「それはそれで…(ワープしかけて我に返り)何でもねっす!」 恵子「アニキは多分キモイと思っても言わねーと思うし、それで逃げたりはしねーと思う。だけど顔には出るかもしれねー」 荻上「…」 恵子「そこであんたがキレたり逃げたりしたら、全てオジャンになっちまう。うちらが心配してるのはそこなんだよ」 荻上「うちら?」 恵子「春日部姉さんも大野さんも、あとの男連中もひっくるめてみんなだよ!」 いきなり頭を下げつつ、両手を合わせる恵子。 少したじろぐ荻上さん。 恵子「頼むよ。頼むからアニキのこと信じてやってよ。どんな反応しようと、アニキがあんたのこと好きな気持ちはぜってー変わんねーから。あたしが保証するよ」 荻上「保証?」 恵子「泊めてもらった時に聞いちゃったんだけど、アニキ寝言であんたのこと呼んでるんだよ。荻上さんって」 荻上「(最大赤面)えっ?」 恵子「そんだけ惚れてんだから、たとえあんたの趣味がどんなに悪くたって気持ちは変わんねーと思うよ」 しばし沈黙。 荻上「お兄さん思いなんですね」 恵子「(赤面し)そっ、そんなんじゃねーよ。たださあ、アニキが落ち込んでるとこ見たくねーんだよ。昔さあ、アニキが中学ん時ふられて凄く落ち込んだ時があったんだよ」 荻上「(驚いて)笹原さんが?」 恵子「まあそん時はあたしも小学生だったんで事情は知んなくて、後で付き合った彼氏がたまたまアニキの同級生だったんで分かったんだけどね」 荻上「…」 恵子「マジあん時のアニキの落ち込みようはひどかったよ。もうあんな姿は見たくないな」 荻上さんの手を両手で握る恵子。 ひるむ荻上さん。 恵子「アニキ幸せにしてくれよ、千佳姉さん」 荻上「姉さん?」 恵子「(腕時計を見て)おっとそろそろ時間だ。じゃ、あたし行くね。アニキには言わないでよね、あたし来たこと」 出て行く恵子。 荻上さんは恵子の言葉を反芻していた。 言われてみればその通りだ。 自分が自己嫌悪に陥るものを人に見せて平気でいてもらいたいと願うなんて、考えてみれば虫のいい話だ。 それを見てもなお隣に居てくれる、それでいいじゃないか、それ以上何を望む? 恵子に会ったことで、荻上さんの中にわだかまっていたものが解決したような気がした。 もう迷うことなく、部屋で笹原さんを待とう。 そう決心して荻上さんは、冷め切ったコーヒーを飲み干すと喫茶店を出ようとした。 「またやっちゃったか」 恵子は帰り道の途中で、自分の分を払ってないことに気が付いた。 「最近姉さんやアニキに奢ってもらってばっかだったから、クセになっちまってるなあ。まあいいか、千佳姉さんあとよろしく。そしてガンバ!」 1人つぶやく恵子だった。
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ランプ 【投稿日 2006/01/21】 カテゴリー-笹荻 夕闇の住宅街を歩いている笹荻の二人。 手を繋いでないが肩が触れそうに寄り添いながら、笹原の方は 背の低い荻上に合わせるように少し背をかがめている。 笹原「明日はまた雪が振るそうだね。天気予報で言ってたけど」 荻上「そうでしょうね。雲の様子でそうじゃないかと思ってました」 笹原「へーーー流石だねぇ。雪国育ちというか」 雪ン子姿の荻上を想像しながら笹原はクスリと笑う。 荻上「いえ、うちのほうはそんな豪雪地方じゃ無かったんですけどね。まあ東京よりは」 玄関前に着いたので、荻上は自分の部屋の鍵を鞄から探り出している。 部屋に入り、壁のスイッチで灯りを点けようとするが…。 カチッカチッ。 荻上「あれ?あれ?」 笹原「どうしたの?電気切れ?」 荻上「……うーん。どうも点けっぱなしで出ちゃったのが、最後の駄目押しになっちゃったかもです」 蛍光灯の方へと近寄る二人。荻上は背が足りてないし、台所からの灯りだけでは薄暗い。 笹原が少し背伸びしながら確認する。 笹原「うーん、32ワットと40ワットだね」 荻上「あ、そうだったんですか」 笹原「そうだったんですかって……(苦笑)」 荻上「あ、いえその、今まで一度も替えたこと無くって」 そう、荻上は意外と部室に入り浸っているせいもあって、大学入学以来 部屋の蛍光灯を替えた事がなかった。 笹原「一度もって、実家でもまさか……」 荻上「……背が低い私にその役割は回ってきませんでしたけど」 ムッとしながらプイスと荻上が横を向く。 笹原「ゴメンゴメン(苦笑)」 「まだ6時だから、電気店で8時とか9時までやってる所もあるし、買いに行ってこようか?」 荻上「え……」 笹原「暗いけどTVでも見て待っててよ。1時間もあれば―――」 荻上「あ、あの、私も一緒に行きます」 笹原「いや、寒いしわざわざ―――」 寂しそうな荻上の上目遣いに今更ながら胸にグッとくる。 笹原「……いや、一緒に出ようか、うん」 部屋から出る二人は、ちらつき始めた粉雪もお構いなしで、さながら 散歩に出かける少年とじゃれつく仔犬のような楽しげな様子だった。 笹原「実は今日、買い忘れた漫画が有ったんだよね。発売日でさ」 荻上「ふふ、私もですよ」 互いにロリエロ漫画誌とBL誌なのだが、うまく別々のレジに並べるだろうか……。
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妄想会長Vオギウエ 【投稿日 2006/06/17】 カテゴリー-現視研の日常 【2006年3月/現視研部室】 「さあ ほら」 「みなさん一度帰って着替えるんでしょう」 「ボーッとしてないで動く!」 現代視覚文化研究会5代目会長・荻上千佳の指示が飛ぶ。 賑やかに談笑しながら行動に移る仲間達。 この日、笹原完士、高坂真琴、春日部咲の3名が卒業式を迎えていた。 追い出しコンパに備えて、笹原の部屋で着替える予定だった荻上だが、皆と一緒にサークル棟を出たところで、ハッと自分の手元を見回した。 ハンドバックを部室に忘れていたのだ。 普通、そんなものを忘れるなんてありえないのだが、新会長就任で気持ちが舞い上がっていたのかと、荻上は自分を恥じた。 オロオロする彼女に、傍らの笹原が、「どうしたの?」と声を掛ける。 「ちょっと待っていて下さい。すぐに戻ります……」 1人で踵を返す荻上。何を忘れたのかは、マヌケで恥ずかしいので言えない。 笹原は、ふーんと考えたあと、ポンと手を叩いた。 「荻上さんも行方不明のお気に入り同人誌が…?」 「違いマス! てゆーか私はまだ卒業しませんから!」 笹原を置いてサークル棟に戻った荻上は、1人で部室に入った。 そっとドアを開ける。 もう陽は傾きかけていて、部室の中は薄暗い。 窓はトワイライトの綺麗な空の色を映し込んでいた。 2人で入った時とはまた違う感慨が浮かんできた。 ちょっと寂しい。 独りでこの時間の部室にいると、現視研に入りたてのころを思い出す。 (あのころの私は、寂しかった……) 誰も部室に来なかった時は、日が暮れるまでノートに妄想を描き込んでいた。 あのころの創作物は、妄想を止められないでいる自分を責めたり、自己嫌悪の気持ちが入り混ざり、叩き付けるようにペンを走らせていた。 独りで苦しんで、周りを突き放して……。 「なんてバカだったんだろ……。ほんと、言ってあげたいな……あのころの私に……」 ふと、我にかえる。 今ごろ笹原が、サークル棟の前でしびれを切らしていることだろう。 「帰ろう」 荻上がテーブル上のハンドバックを手にした時、背後で、ガチャリとドアの開く音がした。 「あ、すみません笹原さん、お待たせし……」 振り返りながら詫びた荻上だったが、途中で言葉が出なくなった。 そこに居たのは笹原ではなかった。 『……あれ? ……私?』 同じセリフを両者が呟く。開かれたドアを挟んで、2人の荻上が立ち尽くしていた。 【200?年?月/現視研部室】 現視研部室のドアを挟んで向き合った2人の荻上。 2人は確かに同一人物でありながら、雰囲気は全く違っていた。 “部室にいた荻上”は、瞳に輝きをたたえ、目元も柔らかく優しい印象を与えている。目を丸くして、もう一人の自分を見つめている。 いつもの筆頭を下ろして、女の子らしいシャツやミニスカートを身にまとい、大きく開けた首周りにはネックレスが光っている。 全体的に女性らしい温和な感じがある。 しかし、“後から入ってきた荻上”の瞳に光は射していない。 目そのものが、あらゆるものを拒絶するかのようにキツくつり上がり、無愛想なまなざしが鋭く相手を凝視している。 髪型はいつもの筆頭、しかし左右のブレードアンテナはやや下がり目である。 顔の輪郭も鋭さを感じさせる。体の線も細いが、それを隠すかのようにブカブカのパーカーとジーンズを着ている。 洒落っ気や女の子らしさということを意識していない印象だ。 2人の荻上は、しばらくの沈黙の後で同時に、『誰?』とだけ呟いた。 だが、2人は向き合った瞬間すでに、「私の前に居るのは私」だと直感していた。 それは本能というべきか、魂の共鳴というべきか、それとも、説明描写を避けたがっているというべきか……。 髪を下ろした方の荻上は、去年の夏に見た「悪夢」を思い出した。 (※SS「せんこくげんしけん」参照)。 あの時の夢は、自分が入学する前の椎応大学に迷い込み、当時の笹原に出会うというものだった。 (これも夢なのか?)と考えあぐねている中、「筆頭」の方が無表情と冷静さを装いながら尋ねた。 「私……だよねあなた? 何で私のくせにそんな格好してるの?」 根本の問題に触れるのは難儀なので、最初はごく普通の質問が投げかけられたようだ。 髪を下ろした方の荻上は、あっ、と自分の服に目を移した。 「こ、これね。今日、笹原さんたちの卒業式だったから……」 「ええっ? あなた、いつの私なの?」 「に……2006年……」 筆頭はよろよろと倒れそうになって、何とか踏み止まった。 「私は、……2004年だども。やっぱコレって夢だよね?」 同意を求められた2006年の荻上も、「うん、私も夢だと思いたい」と呟いた。 「荻上06」と「荻上04」は、再びお互いを凝視したまま沈黙した。 (夢なら早く覚めてほしい)と、同じことを考えていたが、再び、荻上04が話しかけた。 04「夢なら夢でいいけど、あなたナニをしに来たの?」 06「な、何をしにって……あなたが部室に来たんじゃない」 荻上06は反論するが、その時ふと、卒業式の後で笹原に告げた一言を思い出した。 「入学当初の私に……」 「言ってやりたいです“笹原さんとつき合うんだよ”って」 「絶対信じませんよ」 (あんな事を言ったから、こんな夢を見てるのかな) そう思った荻上06は、意を決して話しかけることにした。 夢よ早く覚めろと願いながら。 06「あ、あのね、伝えたいことがあるんだけど」 04「なんですか?」 無愛想な荻上04の瞳が、まっすぐに荻上06をとらえる。 荻上06は、過去の自分の姿に躊躇した。 (私ってこんなキャラだったんだ……) (ああ、でもやっぱり恥しくて言えないよォ) 荻上06は両手で真っ赤になった顔を隠す。 目を閉じたまま、一気に言い放った。 06「わ、わたしね……さっ…笹原さんと…つき合うんだよ」 04「え、ええエエェーーーっ!」 さすがの荻上04も驚きを隠せない。 だが、歯を食いしばるように口を真一文字に結び、ツンの表情を維持した。 06「やっぱり、い、意外…だよね?」 04「ぜっ、絶対信じませんッ!」 06「つ、ついでに言うと、私同人誌作って、笹原さんと一緒に売るんだよ」 04「ええエエェーーーっ!」 荻上04はがく然としながらも、一拍置いて真顔で尋ねた。 04「あの~、PNは於木野鳴雪ですか?」 荻上06は(ツンケンしたってやっぱりオタクじゃない……)と呆れながらも簡潔に答えた。 06「Yes.」 04「ひ…評論本?」 06「No.」 04「い…イラスト集?」 06「No.」 04「じゅ… 18禁女性向けですかあああ~」 06「Yes.」 04「もしかして麦×千ですかーッ!?」 06「Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.Yes.!」 オタ嫌いホモ嫌いのプライドが打ち砕かれ、がっくりと肩を落とす荻上04。 ぼつりと、「そっ、そんなっ……。しかも笹原さんごく普通のオタクじゃないですか……」と呟いた。 06「失礼ね。……でも笹原さん、優しいじゃないですか?」 04「優しくったってオタクじゃないですか! 私はッ……」 06「うん……オタクが嫌いなんだよね。分かるよ、私もそうだったもん」 04「『そうだった』……?」 荻上04はかたくなに「強い自分」を維持していたが、次第に、光の射さない瞳に涙が溢れ出した。 彼女はそれを拭おうともせず、未来の自分を睨み据えた。 04「……未来のあなたは、過去の私を許せるの?……大事な人を不幸にしたことを忘れたの?」 忘れるわけがない。 自分を慕ってくれた牧田を、自分の妄想の玩具にしてしまい、彼の心に深い傷を負わせてしまった。 それは消えることのない十字架だ。 06「……忘れるわけない。今でも思い出すと体が震えるもの……すべてが奇麗に終わるわけないじゃない」 睨んでいた荻上04がギョッとするような、抑揚のない冷たい言葉が荻上06の口から放たれた。 荻上04は、(やっぱりそうだ。この先も背負い続けるんだ)と思うと、呑気に洒落た服を着て立っている未来の自分が腹立たしくなってきた。 (お前も同じじゃないか)という憤りを言葉にして叩き付ける。 04「結局どんなに着飾ったって、男を作ったって、逃れることなんて出来ないじゃない!」 06「!!!」 04「……それなのにオタクだなんて、同人誌だなんて……。だから私はアンタが、自分が嫌いなんだ!」 荻上06はその言葉をまっすぐに受け止めた。 一瞬、唇をかみしめて苦しそうな表情をしたが、苦悶はすぐにフッと消えた。 柔らかい口調で、言葉を返す。 06「ごめんね。……でもね……私、最近結構好きなんだ……あなた(昔の私)のこと」 04「はあッ?」 意外なセリフに、荻上04の鋭かった目がまあるく見開かれた。 荻上06は、恥ずかしそうにちょっとうつむき気味になり、やや上目遣いに04を見つめて話しかけた。 「だって、『オタクは嫌い』と言いつつ、どうしようもなくオタクなところとか。それを隠そうとして失敗するとことか……」 荻上06が口にしたのは、大野が自分を好きだと言ってくれた時の言葉、そのものだった。 (大野先輩は、そんな私を認めてくれた) (そう、今の私には、みんながいるもの) 彼女は再確認した。今の自分には、かけがえの無い人達との「つながり」があることを。 オタクとして共感を持ってくれる人がいる。 親身になって心配してくれた人がいる。 そして、妄想も心の闇も含めて、すべてを受け入れてくれた愛しい人がいる。 荻上06の脳裏に、大野、咲、そして笹原の笑顔が浮かんだ。 直後に何故か恵子と朽木の笑顔も浮かんだが、ぶるぶると頭を振ってそのビジョンを振り払った。 荻上04は真っ赤になってワナワナと震え出した。 04「わ、わだすは、失敗などしねえ!」 06「してたでねか! 都産貿のスラダンイベント行った時、朽木先輩に盗撮されたでねーか!」 一瞬の間が空く。 04「……朽木先輩、許せないですよね」 06「……んだ。2年経った今もなお許せねえ」 2人の荻上は時を超えて共感し合った。 朽木の話題でひと呼吸置いたおかげで、部室は静かになった。 荻上06は、あらためて過去の自分を見つめ直した。 (傷は残っているけれど、それを包んでくれる人たちがきっと現れる) (……彼女は、これから作るんだね、みんなとの絆を……) (いま言い聞かせても、理解できるわけないわ) (……彼女は、これからだもの……) 未来の荻上は、不器用にもがいている過去の自分が愛おしかった。 一歩二歩と近づいて、スッと荻上04を抱きしめた。 「!!」驚く04。 目を閉じてもう一人の自分を感じる06。 2人は頬を合わせ、ドキドキと波打つ鼓動を確かめた。 圧迫や抵抗感が感じられない薄い胸には、お互いに嫌気がさしたが……。 06が優しく言葉を掛ける。 「ま……あんたなりに頑張って……」 2人は体を離すと、同じタイミングでフゥとため息をついた。 荻上04は頬を真っ赤に染めていたが、「だども……わだす信じないから!」とツンとした口調で言った。 04「わ……私は私。誰を嫌いになろうが好きになろうが、私の勝手だから!」 06「うん」 04「これはきっと悪い夢。私は今まで通り、自分がオタクとか腐女子だなんて絶対認めない!」 06「うん」 04「笹原さんだって、オタクはオタク。嫌いです!」 06「うん」 04「お、おしゃれなんか…、あなたみたいな気取った服なんか絶対に着ないし!」 06「あ~、ひょっとしてあなた失敗したばかりでしょ。店員に言いくるめられて……」 04「!!!」 言葉に詰まった荻上04は、間を置いて、恥ずかしそうに未来の自分に尋ねた。 04「み、未来からきて、そこまで知ってるなら、ちょっと聞きたいんだども……わ、私が……この先ハマるカップリングって、どんなの?」 06「……」 この質問には、荻上06も躊躇した。腕を組んでう~んと唸る。 (もう~、腐女子嫌いを公言しながら……しかし教えるべきか、黙っているべきか……) 荻上06は荻上04を手招きした。 2人きりしか居ない部室だが、声に出すのも恥ずかしいので、そっと耳打ちする。 06「悪い夢だと思っているんだったら、教えてあげるけど……」 ゴニョゴニョと、自分が何ページも書きためたカップリングを教える。 04「…………ッ!!」 直後、荻上04はウルウルと涙目になってガクガク震え出す。 ドカッ! いきなり机を弾き飛ばすように窓に向けてダッシュする04。飛びつく06。 06「ここは3階だーっ!」 サークル棟の外にまで、現視研部室からガタガタンと、もみあう音が聞こえてくる。 「ウソだー!」「だどもホントなんだもん!」 夕闇が辺りを包み始めたサークル棟の屋上で、騒ぎに耳を傾ける人影があった。 「入部当初の荻上さんを刺激しようと思ったけれど……少し薬が効きすぎたかな」 一人は初代会長だった。 「でも、おかげで“今の荻上さん”にも“昔の荻上さん”にも、いい影響が出ますよ」 初代の後ろにいた人影が応える。 その姿はハッキリとは見えない。 振り返った初代は、その影に礼を述べた。 「そうだね。君もご苦労様だったね……」 【2006年3月/現視研部室】 …………ハッ!? 荻上06は目を覚ました。 部室のテーブルに突っ伏して寝ていたらしい。 「いけね時間!」 携帯電話を取り出してモニタに目をやると、部室にハンドバッグを取りに来てまだ5分も経っていなかった。 「夢……だったの?」 荻上06が呆けていると、ガチャっとドアが開き、隙間から笹原が顔を出した。 「荻上さん、大丈夫?」 荻上は慌てて立ち上がり、「だっ、大丈夫デス!」と答えた。 そして、笹原の手を取って歩き出し、「さ、行きましょ」と、そそくさと部室を出て行った。 サークル棟の廊下を歩きながら、荻上06は笹原に詫びる。 「すみません、遅くなっちゃって……」 「いやいや、全然ダイジョーブだよ」 いつもの優しい笑顔を返す笹原。それを見て荻上は癒される思いがした。 早く昔の私も気付けばいいのにと、さっきの「夢」に出てきた自分を思い起こす。 「やっぱり信じてもらえませんでした……」 「え、何のこと?」 「何でもないです。スミマセン」 荻上は頬を染めながら、ニコリと笑顔を浮かべた。 【2004年6月/現視研部室】 …………ハッ!? 荻上04は目を覚ました。 部室のテーブルに突っ伏して寝ていたらしい。 「いけね寝ちまったのか?」 携帯電話を取り出してモニタに目をやると、部室に入った時間から、まだ5分も経っていなかった。 「夢……だったの?」 荻上04が呆けていると、ガチャっとドアが開き、隙間から笹原が顔を出した。 「あ、荻上さん、こんにちは」 荻上は慌てて立ち上がり、「こっ、コンニチハ!」と答えた。 そして、赤い顔を伏せて隠れるように歩き、「私はこれで失礼します」と、笹原と入れ替わるようにドアを出て行った。 後日のこと、荻上04が部室のドアを開けると、斑目と笹原がいた。 この日、コミックフェスティバルの当選通知が届いたのである。 「……やあ荻上さん、こんにちは」 そそくさとスケッチブックをたたみ、頬を赤らめている2人。 「………」 荻上04は、過日の「悪夢」を思い出した。 将来ハマるカップリング。 未来の自分が耳打ちしたのは……笹×斑……。 この時ばかりは、さすがに全力で自分の妄想を否定した。 さらに後日、荻上は咲に、「じゃ笹原みたいなタイプは?」と聞かれることになる。笹原がハラグーロを撃退した時のことだ。 「どんなタイプでもオタクはオタク」「嫌いです」 とは言うものの、荻上は、ほんの少しずつ笹原を意識しはじめていた。 <おわり>
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日時 2012年2月5日(日) 夜公演 場所 大阪・御堂会館 イベントタイトル ℃-ute バースデー企画「3人でバースデーイベントやっちゃいます!だって私たち2月生まれなんですもん!Part3」 使用物 赤・青・黄色のサイリウム(各自持参) 白のサイリウムとポンポンを組み合わせた小道具 企画内容 デュエット曲で当該メンバー2人の色のサイリウム点灯 全員曲「大きい瞳」で小道具のサイリウム点灯 企画サイト ◆℃-ute合同生誕企画~2012~◆‐FC2ケータイホームページ 掲示板 cute_seitan_2012の掲示板‐FC2ケータイHP mixiコミュ [mixi] ◆℃-ute合同生誕企画~2012~◆ 12/25作成 どの公演でやるかなどは未定です。 12/26追記 実施日時が決定しました。 01/15追記 使用物・企画内容決定。 当日の様子 02/04の横浜公演の内容を受けて企画内容が変更に。 ソロ曲で当該メンバーカラーのサイリウム点灯 全員曲で小道具のサイリウム点灯 から、 デュエット曲で当該メンバー2人の色のサイリウム点灯 全員曲「大きい瞳」で小道具のサイリウム点灯 に変更。 企画コミュの報告を鵜呑みにするのなら概ね成功のようです。 他にこの企画に触れている情報を見つけられなかったため、企画に言及しているブログ、掲示板の書き込み、twitterの呟き、mixiの日記などがあればurlを教えてください。 または企画のことを覚えていればその内容をコメントしていただいてもけっこうです。 ソース +... 30 2012年02月04日 23 53 今回は、大方の予想に反してデュエット3曲+全員曲2曲というセットリストでした。 したがって、企画概要に訂正を加えましたので下記をご参照ください。 ●企画の概要 ①各デュエット曲に合わせて、ステージ壇上のメンバーカラーのサイリウムを2色同時点灯して会場を盛り上げる。 ②全員曲「大きい瞳」に合わせて、小道具『梅の蕾(白サイリウム)』を一斉点灯し、曲明け後のMCに合わせて『梅の花(白ポンポン)』を一斉に振ってお祝いする。 [mixi] ◆℃-ute合同生誕企画~2012~◆ | 【サプライズ企画会議室】 31 2012年02月06日 20 34 【2/5(日)活動報告】 2/5(日)夜公演 入場口前にて有志スタッフが「バースデーフラワー企画」の説明をし、参加者一名一名に小道具を配布しました。 次に「3色サイリウム企画」の説明をし、事前告知による自主持ち込みができなかった方のために、企画側で用意したサイリウムを配布しました。 2回目公演は、当日券込みで26列まで発券されており、予想より若干多い700名ほどの方が参加されていました。 17 30イベント開演。 トークコーナーが終わり、1曲目の「My Days For You(矢島・中島)」では、赤と青のサイリウムを2本まとめて振っていただきました。単色ではなく赤と青のグラデーションが広がる光景は、メンバーにとっても新鮮だったと思います。 2曲目の「ロボキッス(中島・萩原)」でも同様、青と黄のサイリウムを振っていただきました。曲明けに、メンバーが「青と黄色がキレイだった」と感想を述べていました。 3曲目の「16歳の恋なんて(矢島・萩原)」でも同様、赤と黄のサイリウムを振っていただきました。 4曲目「印象派 ルノアールのように(全員)」では、企画としては何も告知しませんでしたが、自然発生的に3色のサイリウムを同時に振ってくださる方を多く見かけました。このグラデーションも綺麗だったと思います。 5曲目「大きい瞳(全員)」。今回の最大の山場であるラスト曲でのサプライズは、メンバーも予想外だったようで、矢島さんは一瞬唖然として止まってしまい、中島さんは感極まって泣いていたようです。 曲明け後のMCでは、皆さんがポンポンを振ってくださり、メンバーやMCのアラケン(http //profile.ameba.jp/araken/)が、「これ全部手作りですか?」「綿あめみたーい」「すごーい」と小道具について多く触れてくださいました。 19 00イベント終演。 会場外でサイリウム回収を行い、ご参加いただいた皆様一人一人にお礼を述べました。 最後に会場内のごみ拾いを行って、キョードー大阪の現場責任者の方にお礼を述べて、当日の活動は全て終了しました。 [mixi] ◆℃-ute合同生誕企画~2012~◆ | 【サプライズ企画会議室】 - 名前 コメント
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ある朝の風景 【投稿日 2006/01/11】 カテゴリー-笹荻 笹荻成立後の話。 夜、二人は荻上の部屋のベッドで共に眠りについていた。 初めて肌を合わせたのは少し前のことで、それから何度かそういう行為を重ねはしたが、 今日になって突然荻上の方から笹原へ「もし良かったら泊まっていきませんか」と切り出されたのだ。 普段は自分を極力抑える荻上の言葉に、笹原は内心驚きながらも嬉しく思い、 当然断ることなどあるはずもなく、その申し出を二つ返事で了承した。 ただその時の荻上の、他に何かもっと言いたい事がありそうで、 それを飲み込んだような表情が少し気になったと言えば言えた。 そして時刻は2時。ふと何かに気付いて笹原が目を覚ますと、 目の前で眠る荻上の顔が苦しそうに歪んでいた。 呼吸は荒く、顔色は青ざめ、うっすらと汗をかいてうなされている。 そんな荻上の様子に、笹原の寝惚けていた頭が急速にはっきりと覚醒していく。 (…荻上さん?) 胸の前で固く拳を握りしめ、何かを耐えるような荻上の姿に、一瞬どうしたのだろうと訝しみ、 「起こした方が良いだろうか」という思いが浮かんだが、すぐさまその考えを否定した。 思えば、あの荻上が自分から笹原に泊まっていくことを勧めたのは、 ひょっとしてこれが原因だったのではないかと薄々感じたからだ。 結果として起こすことになっても、出来るだけのことをしよう。 そう思った笹原は、きつく握りしめられた荻上の右手に、そっと自分の手を重ねた。 (ひどく冷えてるな) その小ささに内心どぎまぎしながら、優しく手を包む。 少しでも自分の温もりが伝われば、と。 しかし、荻上の苦しそうな様子は変わらない。寄せられた眉根。 きつく閉じられた唇。目元には涙も滲んでいる。 堪えきれず、笹原はそっと囁いた。 「…大丈夫だよ、荻上さん」 少し、添えた手に力を込める。ほんの僅か。思いの分だけ。 「俺は、ここにいるから」 その声が聞こえたわけでもないだろうが、眠ったままの荻上の手が笹原の手をそっと握り返した。 まるで確かめるように。 (起こしちゃったかな) そう思って様子を窺うも、その心配は杞憂だったようで、 荻上の寝息は次第に穏やかなものへと変わっていった。 あれだけ苦しそうだった表情も、今は子供のように落ち着いている。 冷え切っていた手もいつの間にかすっかり温もりを取り戻していた。 繋がったままの手。落ち着きを取り戻した今も、荻上は笹原の手を離そうとはしない。 その様子に何となく苦笑を浮かべながらも、笹原の心は嬉しさで満たされていた。 改めて見る荻上の寝顔は、笹原を動揺させるに充分な程愛らしく、 思わず頭の一つでも撫でたいところであったが、 さすがにそれは目を覚ますだろうとぎりぎりのところで思いとどまった。 握りしめられた荻上の手から感じる温もりが、笹原を次第に眠りへと誘う。 目を閉じる前、最後に見た荻上の表情は何だか少し微笑んでいるように見えた。 (おやすみ、荻上さん…) もう一度だけ軽く手に力を込める。 どうか彼女の見る夢が、穏やかで優しく暖かなものでありますようにという願いと共に。 翌朝。荻上は実にすっきりと目を覚ました。自分でも驚くほど静かな目覚め。 こんなに自然な気持ちで朝を迎えるのはいつ以来だろう、と荻上は考えた。 恐らくは中学生の頃の「あれ」以来だろう。 あの一件があってからずっと、眠れば悪夢に襲われ続けていたのだから。 そう思い、そして何故今日に限って悪夢にうなされず目を覚ますことが出来たのか戸惑った。 そんな荻上の目に、ようやくぼんやりと笹原の姿が映る。 寝る時は眼鏡もコンタクトも外しているので、非常に視界が悪い。 ただ、それでもいつも見慣れている笹原の姿を見間違うことはない。 そしてようやく自分が笹原の手を握りしめていることに気が付いた。 意識すると同時に伝わってくる笹原の体温に、改めて赤面する。 (え…? 何で私笹原さんの手を握ってんの? 寝る時はちゃんと離れてたのに、いつの間に) 途端に手の平に汗が滲むのを感じて、焦りつつもそっと荻上は手を解いた。 急速に冷えていく手の平の感覚に、弱冠の寂しさを覚えながら。 改めて笹原の寝顔を見つめる。ややぼやけてはいるが、それでも分かるひよこのような無防備な寝顔。 そのあまりに笹原らしい寝顔に、荻上は少しの間見入っていた。 (可愛い寝顔だぁ…) そして思った。この穏やかな目覚めは、きっとこの人がいてくれたからなんだろう、と。 期待していなかったと言えば嘘になる。いや、正直に言えば笹原ならばあの悪夢からも助けてくれると、 助けて欲しいとそう思ったからこそ、泊まっていくよう勧めたのだろう。 そして事実助けてくれた。思わず視界が滲む。嬉しさと喜びと愛しさで。 (いつも私は笹原さんに助けてもらってばっかりだ) 些かの罪悪感もある。悪夢を拭い去るために笹原を利用したとも言えるのだから。 けれど、それすらも笹原ならば、「俺で良ければいくらでも手助けするよ。と言っても、 あまり役に立たないかもしれないけどね」などと言って、 いつものように優しく微笑みながら受け入れてくれるのだろう。 知らず、涙が頬を伝う。笹原への思いと、自分への嫌悪で頭の中がいっぱいになる。 (私って本当に嫌な女だ…) 笹原を起こさないよう気遣いながらゆっくりと身を起こし、目元を拭う。 しかし、涙は後から溢れてきて止まってくれない。 何故こんな自分をこの人は選んでくれたのだろう、そんな暗い考えに囚われかけた時。 「ん………」 ごろりと笹原が寝返りを打った。投げ出された手が荻上の膝に落ちる。 そしてむにゃむにゃと口元を動かした後、にこりと幸せそうに微笑んだ。 弛緩しきった、だらしないとも言える幸福に満ちた顔。 「……ぷっ」 そのあまりに明るい笑顔に、思わず荻上は吹き出した。 同時にすうっと心が晴れていくのを感じた。 (眩しいなぁ…。目の前でこんな顔されちゃ、泣いてる自分が馬鹿みたいだぁ) 緩む口元。そっと手を伸ばすと、荻上は笹原の頬を人差し指で軽くつついた。 「うぅ…、ん」 再び寝返りを打ち、荻上のつついた頬の辺りをぽりぽりと掻く。 そんなお約束でとても愛らしい行動に、荻上はくすくすと笑って、もう一度だけ頬をつついた。 笹原は夜中に一度目を覚ましていた所為か、起きるそぶりも見せない。 「さて、と」 ベッドから下りると、荻上は大きく伸びを一つ。そして鏡を見てコンタクトを付けると、 布団にかけていた半纏を手に取り、慣れた様子で上に羽織った。 振り返ってもう一度笹原の寝顔を見つめる。 (せっかくだから、いつも傍にいてくれるこの大切な人のために、 せめて朝食でも用意しよう。精一杯の感謝を込めて) 心の中で呟きながら、台所へと足を運ぶ。 眠ったままの笹原を気遣って閉じられたままのカーテンの隙間から、朝の光が差し込んでいる。 それは今日も快晴である証。まるで台所で我知らず鼻歌を口ずさんでいる荻上の心のように晴れ渡った空。 やがて朝食の支度を終えた荻上は、笹原を起こすためにカーテンを開いた。 瞼に差し込む光と荻上の声に促されて目を覚ました笹原は、窓越しの光に照らされた荻上の笑顔を見る。 かけがえのない大切な物。 それはいつまでも消えることなく心に残る、ある朝の風景。
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パンを焼く 【投稿日 2006/01/18】 カテゴリー-笹荻 合宿も終わってしばらく―――。 夕暮れは早くなってきたが山の木々は蒼い、とある初秋のこと。 笹原のアパートの台所に立つ荻上の姿があった。 その背中ごしの動きはギクシャクしていて心なしか、緊張している……… どころではない。横顔は焦っていて、軽くパニック気味のようなのだ。 全ては笹原の「……手料理食べてみたいな」の一言から始まった。 彼はウッカリと本音をダイレクトに言ってしまうところが有る。 それがゆえに、荻上も「じゃあやってみマス」と二人でスーパーに行ったのだ。 二人でスーパーで買い物してる所までは熱々カップル気分でよかったのだが 荻上自身、節約のために自炊はしているものの 荻上『自分の創った料理って食べ終わる頃には飽きているんだけど……』 といった状況だった。つまりは消極的に不味いという事。 それでも惣菜は売っているし、材料を加熱してこの袋を混ぜるだけ、みたいな ちょっと手を加えるだけで良い物も色々と売っている。 本格的な「一から作る料理」なんて必要性が無かったのだ。 話は戻って。 料理を作る荻上の背中を見ながら、テーブルに座ってデレデレと待つ笹原には その焦りは幸いにも(?)伝わっていなかった。 荻上『ハンバーグってタマネギ以外に何か野菜入れるべか?』 『混ぜるものってパン粉だったのか小麦粉だったのか……』 『ああっ!表面は焦げが激しいのに、いつまで経っても中が生っぽい!』 この脳内の経路を辿ってみれば、どんな料理が出来たかわかるだろう。 やがて、 テーブルの上に並んだ黒い塊を挟んで沈黙する笹荻ふたり。 笹原『ある意味、これはドジッ子の料理失敗萌えというベタなシチュエーションで美味しい状況?』 笹原「……作ってくれてありがとう。じゃあ、いただきます」 もう笹原の方を見ちゃ居られない荻上。自分でもどう見ても失敗なのは分かりすぎている。 カリッ。ハンバーグらしからぬ音を立てて食べられている。 笹原『お約束どおり、中身は生なんだな……』ごくり 笹原「うん、これは…その………」 荻上「無理しなくていいです!もう食べなくて良いですから!」 笹原「いや、全部食べるよ!」 二人にとって最初の喧嘩がこれだった。 それからしばらく。秋雨がしとしと降る日曜日、荻上の部屋でくつろぐ笹原が言った。 笹原「そろそろ晩御飯だね。雨だけどどこか出ようか?」 荻上「いえ、今日は私が作ります」 笹原「え………」 その気配に少しムッとする荻上。 荻上「こんなこともあろうかと―――ネットでレシピをチェックしてますので!」 笹原「それは楽しみだなぁ」 自分を追い込んでしまう荻上。 荻上『よし、ジャガイモは美味しそうに茹であがったべ』 『キュウリの厚さが色々だけど…不味くはならないはず?』 『マヨネーズ使いすぎはよく無さそうだけど薄味だと不味くなりそう。塩を多めに入れて…』 『ゆで卵を切ったりするのもなんだし、炒り卵でも…ああっフライパンにこびりつく!』 『何か一工夫して…この搾った木綿豆腐を!ヘルシーに!』 そうこうして美味しそうなポテトサラダが、鍋一杯に出来上がった。 今回は成功っぽい。笑顔で丼に山盛りのサラダを受け取る笹原。 ぱくり×2。 笹原「うんおいしいよ」 荻上「ちょっと柔らかいですけどね…豆腐で」 しかし、食べ進むうちに無言になる二人。 笹原『うーん……だんだん食べるのが辛くなってきた(汗)』 荻上『ああ、やっぱり私の料理って食べてる最中に飽きるというか…不味いというか』 添えられたインスタントのコーンスープが救済措置となった。 しかし盛り下がって、その夜は別れた―――。 荻上は本来、長く描いている漫画でもテクニック本をよく読む方だ。 となると料理でも、レシピ本しか有るまい。 翌日のこと。 荻上『笹原さんが優しいといっても、このままじゃ自分に負けてるし』 『だいたい自分で食べる分にも飽きるのって駄目だぁ』 自己弁護してみたりしつつ、簡単とか初心者とかいうキーワードを元に本屋で 1時間近く粘ってしまった荻上だった。 山の緑がところどころ黄色くなってきたのが見える。夕風が冷たい中秋の頃。 そんな夕方、荻上に呼ばれて部屋を訪ねた笹原は、部屋に入る前から美味しい匂いが 外に漂っているのに気付いた。 笹原『なんの料理の匂いだろう?和食じゃないけど』 夕暮れと対照的に輝かんばかりの笑顔で玄関の扉を開けた荻上は 後ろを歩いてついてくる笹原に知られずニヤリとした笑みに変わった。 荻上「ちょっと待ってくださいね、今仕上げますから」 フライパンからはニンニクの匂いが漂ってくるが、まだ空のようだ。 そこへガラッと固い音。次に何か激しくジューっという音が上がる。 しばらくして出てきたものは、何かの貝料理のようだが 荻上「アサリのワイン蒸しです。使った以外の白ワインも飲んでくださいね」 荻上の酌で、普通のグラスに注がれる白ワイン。 そして台所に行った荻上が炊飯器を開ける音。 荻上「秋ナスと鶏肉のトマトピラフです。炊飯器で作ってみました」 笹原「うわ―――。」 今までの失敗料理とうって変わっての本格料理に台詞が出てこない笹原。 笹原「お店で食べるような本格料理じゃない?ほんと凄いよ!」 荻上「まずは食べてください」 笹原「うんうん!ほんと美味しいよ!」 荻上「たくさんありますから、どんどん食べてくださいね」 その日は二人とも、食べ過ぎて苦しくなるまで食べても美味しかった。 荻上が使ったレシピの4人前の分量を守ったので、全ては食べ切れなかった。 荻上『レシピどおりに作っただけで吃驚するぐらい美味しいんだなァ』 イメージを再現する能力が優れているのと、舌が良いのかも知れない。 それからというもの、 荻上「実家から新米が送られてきましたので」 笹原「うわ。このお米、今まで食べたのとか良いお店のより絶対美味しいよ!」 荻上「今日は肉じゃがを作りました。定番ですので」 笹原「良いお嫁さんになれるよっていうのが定番の反応?でもほんと美味しいよ」 荻上「今日はパスタです。カルボナーラに挑戦してみました」 「トンカツってなかなか難しいですね、衣が厚すぎてもいけませんし」 「ゴーヤチャンプルーで沖縄気分ですよ」 「餃子の皮を一緒に作りましょう。具は特製ですのでお楽しみに」 「オーブンレンジ買いました。パンを焼いて見ましたので」 そんな感じで、笹原はいつのまにかほぼ毎日、荻上宅で満腹まで食べるようになっていた。 材料費はけっこう笹原持ちだが、お米は荻上持ちだし、ほくほくの日々だった。 そして数ヶ月。ゼミ発表のために久しぶりにスーツを着た笹原は …いや、正確には「着ようとした」笹原は、愕然とした。 笹原『ズボンのフックが止まらねぇじゃん―――!』 それはベルトで乗り切ったが、穴は2つも大きくなっている。 上着もどうみてもパッツンパッツンだ。 大学の正門前で春日部さんに会った笹原は、いきなり爆笑された。 咲 「笹やん、ちょっと!!(爆笑)」 「ぶっちゃけ忘年会の時に荻上共々丸くなったと思ったけどさ。久しぶりに見たら、何それ―――!」 笹原「ひでーな春日部さん……」 咲 「あんた、スーツ買いなおすかダイエットするかしなよ」 笹原「この時期に出費は痛いけど、まあねぇ」 咲 「どうしちゃったのさ?運動不足とか今更関係無いでしょ」 笹原「いや、たぶん……荻上さんの料理が美味しくって」 咲 「うわーーベタなノロケ!!」
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埼玉西武ライオンズ( 01~ 12) オリックスバファローズ( 15~ 18) 読売ジャイアンツ( 19~) 計51種類 2004 081 S-27 HH-02 2005 001 P-6 073 S-01 2006 017 209 S-29 2007 010 118 S-03 226 2008 082 TS-11 S-21 AL-01 274 LL-2 2009 002 B-11 T-13 S-01 207 HT-08 2010 074 T-19 C-8 S-19 HL-10 265 SS-10 2011 TP-04 OP-02 164 2012 S-05 086 AS-08 S-53 2015 008 S-27 2016 025 169 2017 103 2018 019 AL-04 2019 121 2020 109 2021 037 2022 085
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その一 惠子と荻上 【投稿日 2005/10/27】 カテゴリー-1月号 荻上が浴室の扉を緊張しながら開けると、中は薄暗く少し怖い感じがした。 暗がりから声がする。 大野「触ってみますかっ」 咲「だからいいっての(怒)」 荻上「何をしてるんですか?もういいんですか?」 咲「ああ、いいよ。男どもは大人しくしてるだろうね。あたしらが着替えたら惠子も呼びなよ」 大野「とっても良い温泉ですよ」 荻上「何か怪しいですね。何してたんですか!」 咲 「別に何でもないよ、大野がやらしいだけだって」 大野「なっ何を言うんですか!誤解を招くような事を!」 そう言いながら二人は浴槽から上がった。薄暗がりに二人の裸体が浮かび上がる。荻上は顔を赤らめながら横を向いて見ないようにした。 咲 「男どもはあたしたちがしっかり見てるからゆっくり入ってきなよ。おーい惠子―。」 惠子「はーい」 惠子も浴室に入ってきた。 咲 「かー、四人も入ると狭いねー、どれ、あたしらは着替えたし、ゆっくりね」 咲と大野は浴室から出て行った。 惠子「きゃー、温泉!温泉!」 そうはしゃぎながら、惠子は衣服をたたみもせず脱ぎ捨てた。 荻上「外からは・・・見えませんよね・・・」 不安げに荻上も服を脱ぎ始めた。 惠子「大丈夫でしょー、あの二人だって入ってるんだし、中の電気つけなきゃ見えないって!」 荻上「ならいいんですれど・・・」 そそくさと荻上は浴槽に身を沈めた。他人と風呂に入るのは修学旅行以来だ。同性同士でも自分の裸をしげしげ見られるのは嫌だった。 惠子「高坂さん!やっぱ、寝顔も可愛いよね!けっこういい買い物もできたし!軽井沢来て良かったよね!んでさー・・・。」 惠子は普段以上にはしゃいでいる。荻上も惠子と二人きりになることがなかったので、気まずい気がしていたが、惠子も同じように感じているらしく、それを打ち消すようにしゃべり続けた。 荻上「・・・すごい買い物でしたよね。春日部先輩からお金借りたとか・・・」 惠子「あっああ、やっぱり、春日部ねーさんはすごいよね。いや、お金があるとかじゃなく、きっぷがいいというか、一生ついてきますみたいなー。えっ返すあて?そんなもんあるわけねーじゃん!いざとなったら春日部ねーさんの店で働いて返すよ!」 惠子はさばさばした様子で言った。だが借金の話はあまり触れて欲しくないらしく、話題を変えた。 惠子「兄貴とうまくいってんの?」 荻上「!・・・ですからオタクと付き合う気はありません・・・。」 惠子「かー兄貴かわいそー。脈無しかー。好きになったらオタクも何も関係無いけどね。あたしや春日部ねーさんみたいに!あっ高坂さんはだめだよ!」 荻上「あの人もオタクです!」 惠子「(むっ)あんただってオタクじゃん!つーか、あたしは自分の気持ちに正直に生きてるけどあんたは嘘つきだよね!」 荻上「私のどこが嘘つきだって言うです!」 惠子「ていうかさ、あんたは女オタクが嫌いっていうけどホントは自分が嫌いなだけなんじゃないの!オタクと付き合わないんじゃなくてオタクの自分は誰にも愛されないと思ってんじゃないの!」 荻上「!・・・あがります・・・。」 惠子も言い過ぎたと思い、口をつぐんだ。浴槽からあがった荻上の肢体は外からさしこむ薄い光にぼんやりと浮かび上がった。それを惠子は見つめて言った。 惠子「あんたさー。けっこう綺麗な体してると思うよー。自信持っていいと思うよ」 荻上「!いっいやらしいこと言わないでください!」 顔を赤らめて荻上は叫んだ。 本編に続く
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現聴研・第一話「荻上・始動」 【投稿日 2006/04/07】 現聴研 ここは現代聴覚文化研究会の部室。 新会長の笹原がノートPCを部室のコンポのスピーカーに繋いで 音楽を聴いていると、新入会員の荻上さんが入ってきた。 部室にはPSY・Zの「二心」というベストアルバムだ。 「ども……」 「ちわー…あ!ギプス取れたんだね。おめでとう」 「いえ、どうも…ありがとうゴザイマス」 そして椅子に座ると、右手に提げていたアコギのハードケースを 横に立てかける。 笹原はそれを横目で気にしながらも、PCで作業を続けている。 荻上はというと、ノートを取り出してペラペラと捲っている。 会話の無い二人。 部室には音楽だけが流れている。 「これ、PSY・Zの二心ですね」 しばらく聴いていた荻上が口を開いた。 「え?知ってるの?古いのに…」 「まぁ、色々と自力で」 「俺はここに入会してから、色々と古いの洗脳されたんだけどねぇ(苦笑)」 そう言っている間に、荻上はハードケースからギターを取り出している。 「荻上さん、ギター弾けるんだ……!」 「ええ、アコギ2本とクラッシックとエレキとセミアコと、6本ほど持ってます…」 そう答えながら、音叉を取り出し叩くと、ボディーに当てる。 ポーンと気持ちのいいA音が響く。 「あ、音楽邪魔?止めようか?」 「いえ、もうちょっと時間掛かりますから」 言いながら、ハーモニクスで調音を続ける。 さらに、弦のウネリを合わせる方法でも確認してる念の入りようだ。 ストラップを肩に掛け、右足を組むとギターを抱える。 それを見て笹原は音楽を止めた。 「ん、ん…」 咳払いをすると荻上さんは、何やら小さな瓶からクリームを少しだけ 右手の指に馴染ませると、ピックをつまみ、1回強くストロークし、 すぐに右手で弦を止めてミュートした。 「何を弾くの?」 と、笹原が問いかけるが、荻上は答えずに、ジャカジャカと アコギを掻き鳴らし始める。 笹原は何の曲が始まるのかさっぱり解らなくて、頭に「?」が浮かぶ。 と、ギターを弾くのを止めた、荻上が一言、 「今のは、怪我して久しぶりだったから慣らしです」 と、小声で告げた。ズッコケリアクションの笹原だったが その姿勢が直る前に、荻上は曲を弾き始めた。 左手はネックの根元辺りで動く。イントロのメロディーですぐわかる。 「♪駆けてゆく~子供たち…」 まず荻上の歌声が始まり、追いかけるように軽いタッチでギターのストローク。 『あ、PSY・Zの、水の辺境か…このアルバムの最後の曲だ』 笹原はすぐに気づいた。 荻上はといえば、机の上の手書きのノートに眼を遣りながら歌い続ける。 PSY・Zの中でも哀愁を帯びたメロディー。荻上の表情にも憂いが浮かぶ。 2番のBメロに合わせて、笹原も口の中でコーラスを呟く。 「♪なーがーい髪ーを解いて~」 サビの高音も綺麗に声が伸びている荻上の歌声。 盛り上がりに合わせて、荻上のギターにも力がこもる。 笹原は背中がゾクリとして身震いした。 やがて歌い終わり、荻上は目を閉じると 「ふう…」 と、溜息をつく。笹原のほうは恥ずかしくて向けずに、うつむく。 「上手い、上手いよ荻上さん!ギター1本だと元の曲と雰囲気変わるねぇ。 それに自力で耳コピしたの?そのノート?」 「ええ、良い曲だったので……イメージ違うっていうなら、こっちの方が」 言うなり激しい16ビートのストローク。 和音でなく、オクターブ奏法を使って並んだ2本の弦だけ同じ音で鳴らし、 メロディーを奏でる。本来はヴァイオリンの音色であった独特のイントロ メロディーがギターで響くが、すぐに解る。 「ああ、天使の夜だ」 笹原のその声は、荻上のギターの音にかき消される。 「♪イルミネーション、真下に見下ろし…」 アニメ「都市狩人」のOPで有名な曲だが、アコギで歌うなんて笹原には 想いも寄らなかった。確かに一番有名な曲かもしれない。 そして歌の音域も高いが、普段の喋り声と違って荻上の歌声は楽に響く。 『すご…荻上さん、声、高ーーーっ…』 サビのところでは原曲ではベース音とドラムのハイハットだけだが 荻上さんもギターでベース音だけを鳴らして再現につとめる。 気持ちよさそうに歌う荻上さんの顔につられて、笹原の顔も笑顔になる。 その日、荻上は2時間、喋ることなく連続で歌い続けたのだった。